
製造業では、製品のグローバル展開に伴い、多言語でのマニュアル作成が求められます。しかし、翻訳コストや品質のばらつき、納期遅延など、多言語化には多くの課題がつきまといます。本記事では、翻訳メモリ(TM)と用語管理を活用した効率的な多言語マニュアル運用の方法を解説します。
記事要約
製造マニュアルの多言語展開を効率化するには、翻訳メモリと用語管理が不可欠です。翻訳の一貫性向上・コスト削減に直結するこれらの技術を、実践的に活用する方法を紹介します。
多言語マニュアルの現場課題
製造業の多言語対応には以下のような課題があります:
- 翻訳コストの増大:同じ内容を複数言語に何度も翻訳。
- 用語の不統一:技術用語の訳が文書ごとにバラバラ。
- 品質のばらつき:翻訳者によって訳文品質に差が出る。
- 再利用性の低さ:以前に翻訳した文が活用されない。
これらの課題を解決するカギが「翻訳メモリ」と「用語管理」です。
翻訳メモリ(TM)とは?
翻訳メモリ(Translation Memory)は、過去に翻訳した文をデータベース化し、再利用する仕組みです。
主な機能:
- 既訳の提案:同じ文章や類似文が再び登場した際、自動的に候補を表示。
- 一貫性の確保:訳語や文体が文書間で統一される。
- 翻訳コストの削減:重複部分の再翻訳が不要になる。
活用場面:
- 製品マニュアルのバージョン更新
- 複数製品に共通の安全情報や注意書き
- 同一手順書の多言語展開
用語管理とは?
用語管理(Terminology Management)は、技術用語や社内用語を整理し、統一した訳語を指定する手法です。
なぜ重要か?
- 専門用語の誤訳を防止
- 社内外の文書で一貫した表現を維持
- 翻訳者との認識のずれを最小化
導入ステップ:
- 用語リストの収集(現行マニュアルや技術資料から抽出)
- 定義と推奨訳の設定(日本語・英語・他言語)
- 承認プロセスの設定(開発部門・品質管理部門との連携)
- 翻訳支援ツールとの連携(CATツールやExcel形式でも可)
翻訳支援ツール(CATツール)の活用
翻訳メモリと用語管理を連携させるには、CAT(Computer-Assisted Translation)ツールの導入が効果的です。
代表的なツール:
ツール名 | 特徴 |
---|---|
Trados Studio | 多言語・多人数での大規模運用に最適 |
Memsource | クラウドベースでグローバルチームに対応 |
Phrase | 開発チームとの連携にも強い |
OmegaT | オープンソースで中小規模に適合 |
導入のポイント:
- 翻訳者との共有方法(クラウド or ローカル)
- 翻訳メモリの蓄積ルールの明確化
- バージョン管理とバックアップ体制
効果的な運用のための実践ポイント
① 文書構造を意識した原文設計
- 文を短く、明確に。
- 冗長な表現は避け、標準化された表現を活用。
② 「図解+翻訳」に強いレイアウト設計
- 画像中のテキストは極力避け、キャプションで言語対応。
- 言語ごとの改訂が最小限で済むよう、汎用テンプレートを採用。
③ 社内レビュー体制の構築
- 用語の統一性や翻訳の一貫性をチェック。
- 開発部門や現場との連携で、運用に即した品質担保を実現。
導入前後の比較
項目 | 導入前 | 導入後 |
---|---|---|
翻訳コスト | 毎回全訳でコスト増 | 重複部分再利用でコスト大幅減 |
納期 | 製品発売に翻訳が間に合わない | TMの活用で作業スピードが大幅に向上 |
品質 | 訳語の不統一・レビュー指摘多数 | 用語集で訳語統一、レビュー工数削減 |
まとめ
製造業における多言語マニュアル作成は、単なる翻訳作業ではなく、「再利用」と「統一性」が成功の鍵です。翻訳メモリと用語管理を活用することで、品質・コスト・納期すべてにおいて大きな改善が期待できます。
✅ アクションステップ
- まずは社内で用語リストを整備しましょう
- 次に過去の訳文を翻訳メモリとして蓄積しましょう
- 小規模なCATツールのトライアル導入から始めてみましょう
よくある質問(FAQ)
Q1: 翻訳メモリは社外翻訳者と共有できますか?
A: 多くのCATツールでクラウド共有が可能です。
Q2: 用語集はどのように管理すればいいですか?
A: Excel形式やCATツールの用語機能で一元管理できます。
Q3: 小規模メーカーでも導入できますか?
A: はい。OmegaTなどの無料ツールもあり、スモールスタートが可能です。
Q4: 図入りのマニュアルも翻訳メモリで対応できますか?
A: 画像中のテキストを排除し、テキスト要素を外部化すれば対応可能です。
Q5: 機械翻訳と翻訳メモリは併用できますか?
A: 可能です。初回は機械翻訳+TM登録、次回以降はTM優先が効果的です。
この記事を書いた人
編集部