使う前に要確認! 翻訳メモリ使用のメリット・デメリット

以前の記事で、翻訳メモリについてご紹介しました。
「社内のデータを探したところ、翻訳メモリが見つかった! 早速今度の翻訳で使おう」とお考えの方。
ちょっと待ってください!

翻訳メモリはとにかく使用すれば良い、というものではありません。
今回は、翻訳メモリの使用にあたって気を付けたいポイントや、翻訳メモリを使用するか決めるにあたっての判断基準を解説します。

翻訳メモリを使用するメリット3点

まずは、翻訳メモリを使用することのメリットをおさらいします。

 

訳文の流用、参照が簡単にできる

翻訳メモリを使用すると、過去に翻訳した内容を最大限活用することができます。

 

翻訳メモリに登録されている内容と完全に一致する文が翻訳対象に含まれている場合は、翻訳メモリ内から該当する文を機械的に特定し、登録されている訳文をそのまま流用することができます。

人の目で他の資料と照らし合わせて確認しながら翻訳すると、実際には流用可能な文を見落としたり、微妙に異なる文に誤って同じ訳文を流用して、結果的に誤訳になったりするリスクもあります。

翻訳メモリの使用によって、このようなリスクを減らすことができます。

 

また、完全に一致する文がなくても、部分的に一致する文が翻訳メモリに登録されていれば、翻訳時にその訳が候補として表示され、翻訳時の参考として参照することができます。

さらに、文単位で一致するものがなくても、用語単位で訳を検索することができます。

翻訳作業と同じ画面上で検索ができるので、簡単に流用したり、参照したりすることが可能です。

 

一致率を数量として算出できる

翻訳メモリを使用すると、機械的に翻訳対象と翻訳メモリの登録内容との一致率を算出し、事前に作業量の想定を立てることができます。

 

完全に一致する文の数量はもちろん、内容の一致度合いに応じて、「あいまい一致」を機械的に算出することができます。例えば、完全に一致する文章は「100%」、ほぼ一致しているが微妙に違う場合は「99%」、半分ぐらいが一致している場合は「50%」のように、一致率を数値的に算出することが可能です。

完全に一致する文は再度翻訳する必要はありませんし、99%一致する文は少量の調整で済むため、作業負荷は小さくなります。このように、翻訳作業時の作業負荷を作業開始前に想定することができます。

ちなみに翻訳会社では、この「一致率(マッチ率)」ごとに翻訳の価格を変えている場合が多いです。

 

回数を重ねるごとに活用できる量が増える

翻訳メモリには、過去の翻訳内容がどんどん蓄積されていきます。もちろん、蓄積されているデータの量が多いほど有効に活用することができます。

繰り返し翻訳を行うことで、流用できる訳や参考にできる訳が増えるため、より全体で統一が取りやすくなったり、新しく翻訳が必要になる量が少なくなったりします。

以前の内容を踏襲して翻訳を行うことで、過去の作業を無駄にすることなく活用していくことが可能です。

 

翻訳メモリを使用するデメリット4点

次に、翻訳メモリを使用するデメリット、注意するべきポイントをお伝えします。

 

意図しない訳が流用される可能性がある

翻訳時に使用する翻訳メモリを間違えると、意図しない訳が流用されてしまう可能性があります。

 

翻訳メモリには、基本的に、1つの原文に対して1つの訳文が登録されています。
もし、同じ原文に対して複数の訳文を使い分けたい場合は、基本的には別の翻訳メモリを使用する必要があります。

 

例えば、以前とは別の製品のマニュアルを翻訳したい場合、以前の翻訳時と同じ訳を使用して問題ないか確認してから翻訳メモリを使用する必要があります。

もし、他の訳を使用したかったのに同じ翻訳メモリを使用してしまうと、意図していない訳が機械的に流用されてしまったり、翻訳時に参照してそのまま使用してしまったりすることがあるためです。

また以上のことから、訳の使い分けの有無によって、翻訳メモリの管理方法を変える必要があります。

翻訳メモリを作成したり、使用したり、内容を更新する際は、どのドキュメントで同じ訳を使用するかを整理し、管理方法を検討すると良いでしょう。

 

古い訳が流用される可能性がある

翻訳メモリが最新の状態になっていないと、古い訳が流用されてしまう可能性があります。

 

翻訳メモリを使用してマニュアルの翻訳を行う場合、最終的にはMicrosoft Wordやhtmlなどに訳文を出力のうえ使用することが多いです。

翻訳が終わった後にMicrosoft Wordやhtml上で直接訳文を修正すると、その修正内容は翻訳メモリには反映されません。

この場合は、必ず翻訳メモリ上でも同様に訳文を修正する必要があります。

この作業が正しく行われていないと、次回翻訳を行う際、古いままの訳文を流用したり参照したりすることになり、結果として以前の翻訳内容との不統一が発生してしまいます。

 

翻訳時に訳文を確定させてから翻訳メモリに登録することが理想ですが、もし訳文出力後にどうしても訳文の修正が必要になった場合は、必ず翻訳メモリにも修正内容を反映させるようにしましょう。

もし、修正量が多く、翻訳メモリへの反映が困難な場合は、翻訳メモリを作成しなおした方が早い場合もあります。こちらの方法については別の記事でご紹介します。

 

機械的な処理により誤訳が発生する可能性がある

翻訳メモリでの機械的な処理をそのまま使用すると、誤訳になる可能性があります。

 

翻訳メモリには、登録されている内容と翻訳したい文の内容を機械的に照らし合わせ、類似する文を特定し、場合によっては、機械的に翻訳対象に合わせて修正した訳を提示してくれる機能があります。

例えば、翻訳対象とほとんど一致していて数字だけが異なる文が翻訳メモリに登録されていた場合、機械的に数字部分だけを変更してくれる機能があったりします。

この場合、機械的に処理を行うため、意図しない位置に数字が入力されたり、不要なスペースが入ってしまったりする場合もあります。

 

翻訳メモリは機械翻訳ツールではなく、訳文の案を提示してくれるツールです。そのため、あくまでも人の目で、提示された訳で本当に問題がないかを確認し、必要に応じて修正する必要があります。

機械的な判断を過信しないよう、注意が必要です。

 

データによっては機械的な訳文流用ができない可能性がある

先ほどの内容とも関連しますが、翻訳メモリは機械的に内容の一致度を判断しています。そのため、実際には同じ内容でも、別の文として判断される場合があります。

 

例えば、最初にMicrosoft Wordでマニュアルを作成・翻訳し、その内容を翻訳メモリに登録したとします。その後全く同じ内容のマニュアルをhtmlで作成した場合に、前回作成した翻訳メモリを使用しても、必ずしも翻訳メモリの内容と100%一致するとは限りません。

テキストの内容以外に、文書構造を示す情報が含まれている場合、基本的にはその内容も翻訳メモリに登録されます。そのため、テキスト内容が変わっていなくても、データ形式が変わったり、レイアウトを変更したりすることでも翻訳メモリの内容と完全には一致しなくなることがあります。

 

このような場合に、実際には完全に同じ内容を流用できる文でも機械的に訳文が流用されなくなり、注意して翻訳作業を行わないと訳の不統一が発生する可能性があります。

 

翻訳メモリを使用するかどうかの判断基準

これまでにご紹介したように、翻訳メモリはとりあえず使用すれば良い、というわけではなく、効果的に使用できる場合とそうではない場合があります。

 

手元に翻訳メモリがあり、次の翻訳で使用するか迷っている方や、これから翻訳メモリを作成するか迷っている方は、以下のような判断基準を参考にしてみてください。

 

次のような場合は、翻訳メモリが有効に使えるため、ぜひ使用をお勧めします。

・同じドキュメントについて、何度も改訂する予定がある

・同じ訳を使っても問題ないような、類似する複数のドキュメントを翻訳する予定がある

・1冊の分量が多く、何度も同じ訳を検索して使用するのが面倒

 

いずれの場合も、翻訳メモリを使用することで簡単に訳の流用・検索ができるため、作業量を減らすことでコストの削減やスピードの向上につなげたり、訳文の内容を統一することで翻訳品質の向上につなげたりすることが可能です。

 

次のような場合は、翻訳メモリの使用にあたって注意が必要です。

・複数種類の製品のマニュアルを翻訳する予定があり、同じ原文に対して製品ごとに違う訳を使用したい

この場合は、製品によって翻訳メモリを分けることをお勧めします。

 

・以前の翻訳の後に訳文を修正してしまい、翻訳メモリに修正内容が反映されていない

この場合は、翻訳作業を開始する前に翻訳メモリのメンテナンスが必要です。以前の修正内容を翻訳メモリにも反映し、登録内容が最新になってから翻訳作業を始めるようにしましょう。

 

・翻訳メモリの内容が最新かどうか自信がない

この場合は、翻訳メモリの内容と翻訳対象の一致率も考慮しながら、翻訳メモリを使用するかどうかを慎重に検討する必要があります。場合によっては、翻訳メモリの設定で、原文が完全に一致する場合でも訳文が勝手に流用されないように変更し、翻訳メモリは参考にしつつ、必ず最新になっている出力後のマニュアル等も見ながら翻訳作業を行う、という方法も考えられます。それぞれの状況に応じた翻訳作業フローの組み立てが重要です。

 

次のような場合は、翻訳メモリを使用しない方が良いでしょう。

・言語に固有の言い回しにこだわりたい

・原文の内容とは一致しない訳を使用したい

翻訳メモリは、原文と訳文の内容が完全に一致する場合にのみ使用できます。意図的に、原文とは異なる内容や文脈に依存する内容に翻訳したい場合は、翻訳メモリに訳を登録しない方が良いでしょう。

次に翻訳するときに、完全に一致する文が違う文脈で出現する可能性があり、この場合に原文と対応していない訳文が翻訳メモリに登録されていると、そのまま訳が流用され、その文脈では誤りとなってしまうことがあります。

 

まとめ

翻訳メモリは作業量やコストの削減、翻訳品質の統一に役立ちますが、ルールを決めずに使用するとかえって翻訳の品質低下につながる可能性もあります。

使用する前に、どんな使い方をするのが良いか必ず検討し、作成や運用、管理のルールを決めることが大切です。

また、翻訳メモリは常に最新の状態にしておくことが重要です。訳文内容に更新があった場合は翻訳メモリにも必ず更新を反映し、定期的にメンテナンスを行うようにしましょう。

 

ぜひ、ルールを決めて翻訳メモリを活用してみてください!

この記事を書いた人

編集部 Y

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