
近年、翻訳というと「機械翻訳」と「人手翻訳」の2つの言葉を耳にすると思います。そして、これらを比較するときには必ずと言っていいほど、「どちらの方がいいのか?」「機械に任せてしまえばいいじゃないか」「翻訳者って必要?」といったような意見が飛び交っています。
常に比べられる「機械翻訳」と「人手翻訳」ですが、当然それぞれにメリットとデメリットがあり、これから翻訳を行う際により適した方法を選択するには、それぞれについて詳しく知る必要があります。ここでは、それらの側面を掘り下げていき、2つの翻訳体系について解説していきたいと思います。
機械翻訳(MT : Machine Translation)のメリットとデメリット
機械翻訳とは?
機械翻訳とは、人間の介入なしに言語を自動的に翻訳する機能であり、コンピューターの発展とともに生まれた計算言語学の一分野です。
機械翻訳の歴史
機械翻訳の思想は、17世紀まで遡ることができます。しかし、実際に初めて機械翻訳が成功したのは、1954年にジョージタウン大学とIBMが行った実験でした。この実験は、IBM 701コンピューターが60のロシア語文を英語に自動翻訳するものでした。以来、機械翻訳は大きな進歩を遂げ、現在では非常に有用なツールとなっています。特に1960年代には、機械翻訳システムSYSTRANの開発が行われ、ますます使いやすくなり、人気のあるツールへと進化を果たしました。ですが、当初の期待とは異なり、機械翻訳には問題も多く、60年以上経った今でも完全なツールにはなりきれていません。
機械翻訳を行うことのメリット:
問題も多い機械翻訳ですが、以下のようなメリットがあげられます。
- 翻訳速度:ほぼ瞬時に翻訳が行われるため、短い時間で翻訳を終えることができます。これは、一刻を争うような状況(プロジェクトの納期が短い、緊急性のあるコミュニケーション)など、迅速な翻訳対応が必要な場合に有用です。
- 費用対効果の高さ: 人間による翻訳と比べて、費用対効果は高くなります。これは、人手翻訳はプロの翻訳者へ数量文の翻訳料を払う必要がありますが、機械翻訳は無料または低コストで利用することができるためです。
- 高い処理能力: 膨大な量のコンテンツを効率的に処理することができます。そのため、ドキュメントやウェブサイトなど、大量のテキストを翻訳したい場合に適しています。
- 一貫した翻訳: 特定の業界でよく使用される用語やフレーズを記憶し、ドキュメントやファイル全体で翻訳内容の一貫性を保つことができます。
機械翻訳を行うことのデメリット:
では、実際にどういった問題点があるのでしょうか。デメリットには、以下があげられます。
- 翻訳の正確性: 必ずしも正確な翻訳ではなく、間違った翻訳や無意味な翻訳をすることがあります。そのほかにも、原文の文脈を正しく理解できず、伝わりづらい、または意味の分からない文章になることがあります。その結果、特に文化的レファレンスや慣用的な表現を含むような文章では、文が意図していた意味やトーンではない翻訳になります。
- 人間味の損失: 人間の翻訳者と違い、文章に人間性や創造性が欠けることが多いです。1点目でもあげた通り、原文のニュアンスや文体、トーンを捉えるのが苦手なため、機械的で不自然な翻訳になってしまうことが多々あります。
人手翻訳(HT : Human Translation)のメリットとデメリット
さて、機械翻訳のメリットとデメリットを見てきましたが、古き良き人による翻訳はどうでしょうか。機械翻訳に劣っているのか?優っているのか?まずは、こちらもメリットとデメリットを見ていきましょう。
人手翻訳を行うことのメリット:
人間が翻訳する場合、以下のようなメリットがあげられます。
- 正確性:人間の翻訳者は、原文のニュアンスや文脈を把握することができるので、より正確な翻訳を行うことができます。また、言語や方言に合わせることもできるため、自然な文体で意図した意味を伝えることができます。
- 修正作業:翻訳に誤りや矛盾がないか見直しを行い、高い品質での翻訳を提供することができます。
- 創造性と独自性: 創造的でユニークな表現の翻訳にも対応できます。
人手翻訳を行うことのデメリット:
上記のようなメリットがある反面、以下のようなデメリットもあげられます。
- コストの高さ:当然ながら、人が手動で時間をかけながら翻訳するため、機械翻訳に比べ高価になります。
- 時間の長さ: 機械に比べ、どうしても時間がかかります。ですが、時間がかかるからこそ、原文の意図やニュアンスを理解し翻訳することができます。
- ヒューマンエラー: 人的ミスを犯す可能性があり、それが間違った翻訳につながる場合があります。
- 主観性: 主観的な翻訳になる場合があり、同じ原文でも異なる解釈につながる可能性があります。これは、翻訳の際にバイアスがかかってしまうことによって発生してしまいます。
まとめ
機械翻訳は、翻訳のスピードと費用対効果が高く、大量に翻訳を処理したい時などに適しています。書き方が明瞭簡潔なマニュアルや、量はあるが文脈にあまり左右されない単純なテキストの翻訳に向いてはいますが、文脈が複雑になるような創造性の高いコンテンツの翻訳を行いたい場合や、翻訳の精度を重視したい場合は、人手の翻訳に軍配が上がるでしょう。
最終的に、機械翻訳と人手翻訳のどちらを選択するかは、翻訳の具体的なニーズ、翻訳対象、目標によって決まりますので、それらを事前に把握することが重要になります。
機械翻訳の進化と活用方法
今回、ひとことで「機械翻訳」としてご紹介してきましたが、実は機械翻訳にも種類があり、ルールベース機械翻訳(RBMT)、統計的機械翻訳(SMT)、ニューラル機械翻訳(NMT)という3つのアプローチ方法が存在します。ご紹介したメリット・デメリットを踏まえ、多くの翻訳管理システム(TMS)では、プロの翻訳者によるレビューや編集を含めながら、機械翻訳モデルを活用しています。これにより、時間とコストを節約しつつ、正確なメッセージが伝えられるような仕組みとなっています。
次回の「機械翻訳 vs 人手翻訳」では、これら3つのアプローチ方法の特徴と、機械翻訳と人手翻訳をそれぞれ効果的に活用する方法について話したいと思います。
この記事を書いた人
編集部