マニュアル翻訳をもっと効率的に!翻訳メモリとは

忙しい製造業の現場では、業務の効率化が重視されます。
そんな中で、マニュアルの翻訳が必要になったとき、以下のようなお悩みを持つ方が多いです。

「同じ文を何度も翻訳するのは非効率な気がする」
「とにかく時間がかかる」
「上から翻訳すると、いつの間にか訳がぶれてしまい、後から読むと不統一が気になる。とはいえ、いちいち前の訳を検索しながら翻訳するのは面倒」

そんなお悩みの解決に一役買えるのが、翻訳メモリです。
翻訳メモリを活用することによって、翻訳作業の効率化や、時間・工数・コストの削減、訳文の統一が実現できます。
社内で翻訳したり、翻訳を外注したりする際に欠かせない「翻訳メモリ」について、ぜひ知っておきたい基礎知識を解説します。

翻訳メモリとは?

翻訳メモリ(TM:Translation Memory)とは、主に翻訳支援(CAT:Computer Assisted Translation)ツールとあわせて使用する、原文と訳文が対になって登録されたデータベースのことを指します。翻訳メモリは、マニュアルなどの技術文書だけでなく、あらゆる文書の翻訳で使用されています。

翻訳メモリには、翻訳したテキストが一文単位で登録されており、主に繰り返し翻訳を行う際に訳文の流用や検索で使用します。

翻訳メモリでできること

翻訳メモリを使用すると、新しい文書を翻訳する際に、登録内容と完全に一致する文が出現した場合、機械的に一致する文を特定し、過去の訳文をそのまま流用することができます。

また、一致はしなくても類似の文が翻訳メモリに登録されていれば、翻訳時に候補訳として表示され、その内容を参考に翻訳することができます。

過去の翻訳内容を最大限流用したり、参考にしたりすることができ、同じ文を再度翻訳する必要がないため、訳文の統一や、翻訳スピードの向上が期待できます。

翻訳メモリでできないこと

翻訳メモリは、翻訳作業を支援するツールであり、機械翻訳とは異なります。

同じ原文に対する訳文を自動入力したり、類似の文の訳を候補として表示したりすることができますが、自動で訳文を編集することはできません。必ず人の目で訳文の内容を確認し、必要に応じて編集する必要があります。

翻訳メモリを使うには?

翻訳メモリは、「翻訳支援(CAT)ツール」と呼ばれるソフトウェアと組み合わせて使用することが一般的です。

翻訳支援ツールに翻訳対象のドキュメントを取り込み、翻訳メモリを設定することで、翻訳メモリを使用して翻訳作業を行うことができます。

翻訳支援ツールについて

翻訳支援(CAT)ツールとは、翻訳作業の効率化を支援するツールです。

翻訳者や翻訳業者が翻訳作業を行う際には、翻訳支援ツールが使用される場合がほとんどです。社内で翻訳を行う場合でも、翻訳支援ツールを使用することで、より効率的に作業することが可能になります。

 

翻訳支援ツールには様々な種類があります。以下は代表的な翻訳支援ツールの例です。

ツール名 URL
Trados Studio (RWS社) https://www.trados.com/jp/products/trados-studio/
Phrase TMS (Memsource社) https://phrase.com/ja/

 

他にも様々なツールがあり、無料・有料の違いや、機能や特徴の違いがあります。

使用感がそれぞれ特徴的なので、効率的に作業するためには、同じツールを使い続けることをお勧めします。どのツールを使用するか、用途に応じて比較・検討してください。

ちなみに、翻訳業界でのシェア率ではTrados Studioがトップになっています。

翻訳メモリを使用するメリット・デメリット

翻訳メモリを使用することの主なメリット・デメリットを紹介します。

翻訳メモリ使用のメリット

翻訳メモリを使用し、過去に翻訳した文章を後続の翻訳で流用・参照すると、主に以下のようなメリットがあります。

  • 翻訳メモリにある原文は対応する訳文を流用できるので、訳文のブレが防止できる
  • 翻訳メモリにない原文も、効率よく既存の訳文を参照して翻訳できるので、訳語の統一が取りやすい
  • 翻訳メモリにない原文を特定できるので、翻訳対象を絞り込むことで翻訳の工数・費用を削減できる

また、翻訳メモリの活用によるメリットは、翻訳対象のドキュメントが文字数の多い、原文テキストの流用度の高いものほど実感できます。

 

特に、製造業界における工作機械の取扱説明書のようなマニュアルの場合、冒頭の安全表記の部分、基本仕様の部分、トラブルシューティングの部分などは、製品ごとの違いはあっても、ほとんど同じような文章が複数の製品(ドキュメント)で共通していることがよくあります。

こういった場合に翻訳メモリを活用すると、改訂や差分などで内容が変わった部分だけを翻訳対象とすることができます。

例えば、100万文字あるドキュメントのうち、全体の10%程度が改訂となった場合に、実際の翻訳量を10万文字程度に絞り込み、残りの90万文字は既存の訳文(翻訳メモリの訳文)を流用する、ということも可能になります。

翻訳メモリ使用のデメリット、注意点

このように便利な翻訳メモリですが、使用に注意が必要な場合もあります。

例えば以下のような場合については、翻訳メモリを使用しないか、注意して使用する必要があります。

 

  • 翻訳メモリ内の訳文が最新ではない場合
    翻訳内容を翻訳メモリに登録した後、訳文内容に変更があった場合は、その変更内容を翻訳メモリにも同期する必要があります。この作業が行われていない場合、翻訳メモリ内の訳文は古いままとなるため、この翻訳メモリを使用して翻訳すると、変更前の訳が流用されてしまいます。

 

  • 製品の違い等によって訳し分けが必要になる場合
    例えば、以前とは別の製品のマニュアルを翻訳したい場合、毎回同じ翻訳メモリを使用すると、別の製品で使われている訳がそのまま流用される可能性があります。使いたい訳が製品によって異なる場合は、別の翻訳メモリを作成・使用する必要があります。

 

  • 翻訳メモリ内に複数種類の訳が混在している場合
    同じ製品の同じ原文でも、文脈によって訳し分けが必要な場合など、複数の訳が同じメモリ内に混在している場合があります。このメモリを使用して、完全に一致する原文の訳文をそのまま流用すると、意図しない訳が流用される場合があります。このような場合は訳し分けを機械的に判断することは難しいので、人の目でチェック・正しい訳への修正を行う必要があります。

まとめ

翻訳メモリを活用することによって、対訳をデータベースとして資産化でき、次回以降の翻訳作業においてコストを削減したり、翻訳スピードを向上させたり、翻訳の品質を高く保つことができます。

現在、翻訳メモリを使わずに翻訳している場合や、これから新しく翻訳を始めたい場合は、翻訳メモリを作成し、活用することをお勧めします。

また、翻訳メモリは持っているがうまく活用できていない、という場合は、翻訳メモリの使い方の見直しや、翻訳メモリ自体のメンテナンスをお勧めします。

この記事を書いた人

編集部 Y

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