
マニュアルとは業務の進め方をまとめた手順書のことを指し、作業の効率化や品質を保つために使われています。会社の規模を問わず、さまざまな企業で独自のマニュアルが存在しており、製品品質が重要となる製造業はマニュアルが必須といえます。
また、マニュアルは使い方次第で、製造物の品質や作業者の作業効率を大幅に向上させます。この記事では製造業におけるマニュアルが「製品品質や作業効率を向上させる」という観点から解説します。ぜひご一読ください。
製造業にとっての品質の重要性とは?
品質とは消費者が企業を判断する「信頼性」の大きな要因の一つです。誰しも製品の購入やサービスを受けるときには信頼できる企業を選びます。
とくに「自社製品を手に取って貰う」ことが消費者との大きな接点となる製造業にとっては製品一つ一つが「会社の顔」であり、品質が会社の評価につながると言っても過言ではありません。
したがって「品質」という「信頼」を得ることは、製造業において売上を上げる重要な要素となります。
また、日本や世界で適用されているISO・JISといった規格には品質に関わる項目もあるので、これらを遵守することは重要です。
このように製品の品質は、企業の信頼性を決める大切な要素の1つであることがわかります。そして品質を左右するマニュアルの存在もまた重要であるといえます。
製造業のマニュアルで製品品質は変わるのか?
製造業にとって品質は重要だと述べました。では、なぜマニュアルを活用することが大事なのでしょうか?理由は品質を客観的な視点で判断できる効果的な手段の一つだからです。
現場では毎日同じことを繰り返すうちに気が緩み「これくらいの不良なら許容範囲だろう」「次工程の作業者が気付くはずだ」と後にトラブルにつながりかねない誤った判断を下してしまう傾向があります。
それらを防ぐのに有効なのが、客観的な視点を指標としたマニュアルの使用を工程の中に入れ込むことです。とかく作業には作業する者の主観が入りがちです。前述のように「~だろう」「~はずだ」は主観に基づく楽観的な予測です。均一化された品質を確保するためには、主観を挟むべきではなく、標準化された客観性が必要とされます。都度他者の判断を仰ぐことは非効率なため、効率を重視したマニュアルの活用が重要になります。
他に客観的な視点を得る方法に消費者の意見やクレームを収集する方法があります。しかしこの場合、製品を市場にリリースしなければなりません。製品の品質が消費者から酷評を受けたら、会社の評価は下がってしまうでしょう。
最悪の場合「ここの会社の製品を買うのはやめとこう」と消費者に見限られてしまいます。欲しかった意見やクレームさえも手に入らない状況に追い込まれる恐れすらあります。
マニュアルは「社外の評判を落とさずに客観的な視点を製造現場に持ち込む方法」として有効であり、重要なものです。
現場に導入されるマニュアルは目的や用途に合わせて変わります。次節からはなぜ用途別にマニュアルが必要なのかを説明します。
マニュアルの用途1 作業手順書による工程管理
仕事にはそれぞれの作業手順・工程があります。とくに製造業はそれを守ることが品質向上につながります。理由は作業者の違いで品質に差が出るのを防ぐためです。
製造業は機械関連や食品・医薬品などさまざまな種類がありますが、製品を大量生産することは共通しています。それ故に多くの人が直接製造に携わります。
しかし、すべての作業者が同じ品質のモノを作れるわけではありません。
ベテランと新人の熟練度の差で品質が大きく変わることもあるからです。作業に特別な技能が必要あるいは作業工程数が多ければ多いほど品質の差は大きくなる傾向にあります。
品質にバラツキがある製品を消費者は「信頼」するでしょうか?
製造する人、場所、時間によって品質が異なるようでは消費者からの「信頼」は得られません。会社の評価を下げないためにも、作業者の違いで製品品質に差が出ることは防がなければなりません。そのためにもマニュアルを作業手順や工程管理に活用する必要があります。
マニュアルの用途2 検査作業による品質検証
製造業にとって検査は品質を守るために重要な工程です。
多くの工場では製造工程に「受け入れ検査」「工程内検査」「出荷検査」という3種の検査が組み込まれていることから、製品を作るうえで検査は重要だということがわかります。
その役割は大きく、たとえば製造途中に問題がないかを調べる「工程内検査」をおろそかにした場合、後工程に不良品を流す可能性があります。
製造ラインにとって後工程に行けば行くほど、製品に付加価値が付いていく仕組みとなっているため、この見逃しは前行程に戻って不良を修正、または製品の廃棄など作業のムダにつながります。
直接お客様の声を聞くことがない生産部門だと、自分たちの都合を優先しがちです。後のことを考え、次の工程に流す製品の品質には責任を持たなくてはなりません。
トヨタには「後工程はお客様」という有名な言葉があります。製造業に携わる人なら一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
この教えは「自分の仕事さえ良ければ良いという考え方ではなく、後工程の作業者、ひいては最終的に製品を手にするお客様のことを考えながら仕事をする」という意味です。
マニュアルではこういった会社の理念や信条を伝えることも可能です。たとえばこの工程で検査をやらなければいけない理由をマニュアルで丁寧に説明できれば「この作業は品質検証という目的があり、ひいては会社が掲げる理念につながる」と、マニュアルと理念や信条を紐づけることができます。企業内における共通の価値観をマニュアルを通じて醸成できるのです。
このように企業内で理念や信条をマニュアルを用いて共通認識とすることで、自分だけの作業に陥りがちな検査作業を全体の重要な一部という認識にできるのです。結果、後工程に送られる不良品の数を削減でき、手戻りや廃棄といったムダを少なくすることが可能となります。
マニュアルの用途3 経験の共有による品質改善
毎日同じ作業を繰り返していると「ここはミスが多いから気を付けよう」「この工程は簡単だから時間を短縮できる」というように経験が蓄積されていきます。
しかし、経験はあくまで主観的なデータであり、アウトプットしなければ会社全体の品質、作業効率向上に生かすことはできません。
他者へ伝えたとしても個人の経験則や口頭での伝達では、情報にムラが出る、属人的であるというデメリットがあります。
実際の製品を使って仕事を教える場合は、部品を用意するなど状況を再現する準備が必要です。この方法では製品が大きければ大きいほど、または作業工程が多いほど用意に手間がかかります。
そこで活用するのが客観的な指標を持つマニュアルです。あらかじめマニュアルがあれば「2番目の工程で溶接不良が発生しやすい」「この作業は次工程で細かくやるので時間をかけなくともよい」という形で大がかりな下準備をせずとも、標準化された個々の経験を文章や映像で伝えることが可能となります。このような伝え方なら個人頼りではなく「マニュアルを読めば(見れば)誰もが理解できる」状態にもっていけるのです。
マニュアルの改善を都度行い、作業手順書、検査作業用マニュアルと併用すれば属人的な業務を標準化できるのも利点といえるでしょう。
製造業はマニュアル次第で品質改善が可能
製造現場でのマニュアルの有無は品質に大きな影響を与え、場面によって使用方法を変えることで、さらなる品質向上が見込めるとおわかりいただけたかと思います。
現場にただマニュアルを置くのではなく「作業手順書による工程管理」「検査作業による品質検証」「経験の共有による品質改善」を意識しながら仕事に取り組めば製品品質も上がるでしょう。
マニュアルの用途は上記でご紹介した3つ以外にもまだまだあります。それらは追ってご紹介していこうと思います。もし現場にマニュアルがない、もしくは単に置いてあるだけで品質向上につながっていないという現場がありましたら、これを機に見直してみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人

佐々木良輔
金属加工・アルミ鋳造を行う工場に計7年間従事し、検査で使用するチェックシート作成や出荷品不良率のグラフ化など品質に携わる改善活動を行う。実際に現場での作業も経験あり。現在は異なる業界で働きながら、副業でライティングをメインに活動中。また記事の糧になればとFPや知的財産管理技能士などを取得し、今後も資格勉強をする予定。